ジェンダーレスの最前線「オールジェンダートイレ」賛否両論!LGBT用は本当に必要なのか
最近、街中や大学などで見かけるようになった「オールジェンダートイレ」。男女のマークが並び、時には"ALL GENDER"の文字が添えられた新しいタイプのトイレだ。その設置には賛否が分かれ、SNSなどでは「誰でも使えるのは便利」「防犯面が心配」「そもそも必要なの?」といったさまざまな意見が飛び交う。実際、この変化はどこから生まれ、何を目指しているのか。そして本当に社会の分断や不安を招くものなのか。本稿では、オールジェンダートイレをめぐる背景、意義、課題を、日本社会とトイレ文化の文脈から読み解く。
【第1章】オールジェンダートイレとは?
オールジェンダートイレとは、その名の通り「すべての性別の人が利用できるトイレ」を指す。従来の男女別トイレや、車椅子利用者などを想定した多目的トイレとは異なり、「性別を問わず、誰でも」使えることを前提にして設計されているのが特徴だ。英語では"All Gender Restroom"や"Gender Inclusive Bathroom"などと呼ばれ、特に北米の大学や公共施設で導入が進んでいる。
日本国内でも導入の例がある。たとえば、国際基督教大学(ICU)では2020年、本館トイレの一部をオールジェンダートイレに改装。便器は個室ごとに完全に仕切られ、天井まで壁が続く設計とし、プライバシーと安全性に配慮されている。利用者の多くは「誰でも使える安心感がある」と肯定的な意見を述べるが、一方で「違和感がある」「使いづらい」との声もある。
【第2章】なぜ必要なのか?誰のためのもの?
オールジェンダートイレが求められる背景には、トランスジェンダーやノンバイナリー(非二元的な性自認を持つ人)の人々の存在がある。彼らにとって、男女いずれかのトイレを利用すること自体が精神的・社会的ストレスになりうる。「トイレに入るだけで、にらまれる、声をかけられる、警備員を呼ばれる」というような体験は、当事者にとって日常的な問題だ。
また、体の性別と自認する性が一致しない人々にとって、公共のトイレ利用は常に「選択を迫られる」場である。そうした背景から、性別に依存しないトイレの必要性が社会的に注目されるようになった。ICUでは学生たち自身が声を上げ、大学と連携してトイレ改革を推進した。こうしたボトムアップの動きも、オールジェンダートイレ普及の鍵となっている。
【第3章】反対意見と“違和感”の正体
オールジェンダートイレの導入には賛否がつきまとう。最大の懸念は「安全性」と「心理的抵抗感」だ。たとえば、渋谷区の公衆トイレでは、設計段階で女性用個室を廃止し、すべて個室型のユニバーサルトイレに統一したところ、「女性の安全が脅かされる」と批判が殺到した。
また、トイレという空間が本質的に“無防備”な場であるという認識も強く、「性別が異なる人と同じ空間を共有すること」自体に抵抗を感じる人も多い。この点では、公共の更衣室や浴場などと同様、単なる設備設計では済まない「文化的コンセンサス」の問題が表れている。
こうした違和感の背景には、長年にわたって「性別によって空間を分ける」ことが当然とされてきた日本の文化や習慣がある。つまり、オールジェンダートイレの是非をめぐる議論は、単に施設の設計を超えた「社会の性別理解の深度」を問うものでもあるのだ。
【第4章】日本のトイレ文化の特殊性
日本のトイレは世界的に見ても非常に発展している。ウォシュレットの普及率、音姫の設置、多機能トイレの存在など、清潔さや利便性において高い評価を得ている。一方で、その分「プライベート性」「使い方の作法」が強く意識され、逆に多様な使い方を許容しにくい文化的側面もある。
多目的トイレは高齢者や障害者、小さな子ども連れの保護者向けに設計されているが、性的少数者の“逃げ場”として使われることも多く、本来の目的との兼ね合いで摩擦も起きやすい。加えて、数自体が少ないため、混雑や不満も起こる。
このように、「すでに多機能トイレがあるのだから、オールジェンダートイレは不要」とする意見もあるが、それは“補助的な回避策”に過ぎず、制度として包摂するものではない。その意味で、オールジェンダートイレの設置は、包摂の明示的な「意志表示」としての意味合いを持つ。
【第5章】では、どう折り合いをつけるべきか?
現時点で理想的とされる形は、「個室完全分離型」のオールジェンダートイレだ。すべての便器が壁と天井で完全に区切られており、洗面台も個別に設置されている。実際に導入したICUでは、空間設計の工夫によってプライバシーと安心感を両立させている。
また、「選択肢を増やす」方式も有効とされる。たとえば「男性用」「女性用」「オールジェンダー用」の三種を併設する方法だ。これにより、多様なニーズに応じた選択が可能となり、心理的な強制や対立を緩和できる。
最終的には、制度や設計の問題だけでなく、社会的な理解や共通認識の醸成が必要不可欠である。「誰のためのトイレか?」を考えることは、ひいては「誰のための社会か?」を問い直す行為でもある。
【結論】トイレはただのトイレではない
オールジェンダートイレは単なる設備改善の話ではない。それは、性別という社会制度、文化的な慣習、そして個人の尊厳が交わる場所にある「課題の象徴」だ。誰もが安心して過ごせる空間とは何か――その問いに向き合うことが、私たちの社会の成熟を測る一つの物差しになるだろう。
コメント
コメントを投稿